ytr/リフレインについて(2020/1/9)

人のパーソナルな弱さをラップに乗せることで歌詞に深みがでできますが、
正直に言いいますと、ゴリゴリの服着てブリンブリンの宝飾品身につけてる方が「俺は弱い」「昔はいじめられっ子」とラップしても何の共感も持てることもなく、
逆に「ギャップ狙ってんじゃねーよ」と天邪鬼な耳で接してしまうのが私です。洋平です、どうも。
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外見からだけでは内面の情報を得られないことは十に承知ですが、
どうも強面のラッパーが自分の弱さを歌うのは好きになれませんでした。

そんな折、私が高校生の頃に出会ったのがネットラップです。
名の通りネット上にラップ音源を投稿するのですが、等身大の歌詞が多くその匿名性も相まって途端に惹きつけられました。
顔もバックボーンもわからない方のラップを聞くわけですが、逆にリスナーは想像力を掻き立てられ、僅かな歌詞をヒントに辿ることを強いられるわけです。
見た目の先入観がないので、「俺はニート」「いじめられっ子」と言われても「だろうね、わかる」とすんなり受け入れることができました。

歌詞に大切なのは、聞いてくれる人へのメッセージ性だとよく言いますが、ネットラップにそれはあまり必要なく、自分が本当に好きなもの、抱いている感情を表現するために使われていました(ような印象を受けました)。

大衆音楽ではないので「頑張れ」「負けるな」と言った語りかけるワードが少なく、どのような表現ならば自分の好きなもの、感情を上手く伝ることができるかについて考えられています。
動画でネット上に投稿するのでリリックビデオ形式のビデオが多く、歌詞表現に兎に角特化したラップになっているのが特徴です。

私がネットラップにハマったきっかけは「らっぷびと」ですが、私が今でもネットラップが好きなのは「ytr」の功績が大きいです。
2016年に満を持してリリースしたソロアルバム「夢現狂詩曲」は私の2016年の個人的ベストアルバムとなっています。


今回はそのアルバムの中から、ネガティブからポジティブへの転換を描いた「リフレイン」という曲について書いていきます。

「リフレイン/ytr」

※アルバム収録は「リフレイン -AREA11-」となっています。

—–hook—–
時を止め 繰り返しを求め
縋り付く過去 目を背ける
いつもここで振り返り見る
省みる場所 今なら届く手

ヒビ割れた 日々を忘れかけても
リフレイン ones again
想いを知らぬが故に産むすれ違い
まだ見えない未来
—–

陰鬱なピアノイントロから始まり、畳み掛けるようにネガ表現のhookが入ります。
「繰り返しを求め」「縋り付く過去」「ヒビ割れた日々を忘れかけてもリフレイン」等、踏み出そう踏み出さないの狭間で揺れる感情が繰り返されてる表現がとても秀逸だと思います。
何より、タイトル名であるリフレイン(繰り返し)と相まってとても効果的なhookです。

—–1st verce—–
暗い闇にすっかり馴染んだ
とうの昔に狂った羅針盤
マリオネットは鬼の居ぬ間にも
怯えきる 檻の中で見る最後
何も知らないほうがいい
出来ることならば戻りたい
夢を思い返そうとし過去に戻り回想 
頭の中リプレイ

現実から失礼 
気づけば思い出ばかり見つめてる
いつしか直視する事を止めて 
写真の中の自分に恋焦がれる
手を出す 頼り切り触れる甘い話 
またも直にリフレイン
昨日か明日 施しと願掛け 
逆行 戻す価値観さえ
—–

暗い闇に馴染むほど繰り返した感情とそれまでの経緯を韻を踏まえながら見事に書ききっています。
同アルバム収録の「ひとりぼっちわくせい」、MAXBET(ytr,妖狐)時代の「空亡」の曲を聴くとわかりますが情景描写と感情描写が群を抜いて旨いです。
特に「現実から失礼」の部分は、フロウもそうですが、日本語表現もウィットに富んでるためとても好きなフレーズです。

—–2nd verce—–
否応無くやってくる明日 
口を開けばまた荒んだ会話
嫌になる暮らしからか
独り口ずさんでいた昔の会話
残した足跡消えそうな今も
増え続けまたも石落とす水面
ただ蔑む目の日常 
必要最低限のコミュニケーション

巻き戻す救いの手をくれた 
神か悪魔か既に手遅れさ
いつも通り何時戻り出すか 
時計の針を見つめて離脱
明日よりも昨日 そのまた昨日 
意識は遠く向こう
今宵も誘う 夢の中へ 
once again 残り香に不安だけ
—–

対して2nd verceからはラップスキルが表に現れてきます。
1st verceだけを聴くと(又は歌詞だけで見ると)ポエトリーリーディングと取れなくもないですが、2nd verceを通すことでラップの形となります。

「口を開けばまた荒んだ会話」「独り口ずさんでいた昔の会話」は現在と過去の対比が効いていてすんなりと受け入れられます。何より凄く気持ちがわかるんですよね、上手くいった会話というのは今でも覚えてて、大切に心にしまうので、とても共感できます。
名も顔も知らない人とネット上でラップを通して繋がる経験ができるのもネットラップの醍醐味ですね。

私は短い章節で短い韻を淡々と踏むライムが好きなのですが2nd verceは私の好きな部分を詰め合わせたかのような内容です。
「残した足跡消えそうな今も 増え続けまたも石落とす水面」「いつも通り何時戻り出すか 時計の針を見つめて離脱」の部分は大好きですね。
また、この部分はラップしてても気持ちいいです(笑。

「いつも通り」「何時戻り」は掛詞めいた言葉遊びでとても良いですね、言葉遊び関連について言うと、まだまだ日本語ラップの領域は拡大余地があると思っています。
(しかしながら、直感的歌詞に流れている昨今では誰にでもわかる歌詞が求められているため、そこをラッパーの責任にするのかリスナーに委ねるのか、といった問題があるかと思います)

—– bridge—–
記憶の断片を拾い集め 
繋ぎ合わせて「思い出」と名付ける
何よりも過去が恋しくて 
可憐に散った今にも

リフレイン 残り香に不安だけ 
リフレイン 施しと願掛け
リフレイン 戻す価値観さえ 
繰り返し見る夢 またもリフレイン
—–

曲の中で1番好きな部分です。これまでのverceの内容がこのbridgeで収束していきます。
今までは何かある度に過去に逃げることで現実を遠ざけていました。そんな良かった記憶を「思い出」と名付けることで「過去」として認識し、過去との決別をしているように見えます。
最初に書きましたが、この曲はネガティブからポジティブへの転換を描いた曲だと思っています。

「何よりも過去が恋しくて 可憐に散った今にも」そんな思い出に対しまだ未練があるけれど進まないといけない、けれど、という感情の揺らぎが感じ取れます。
こういう部分が良いですね、カッコつけてないけどカッコいいです。
これから、hookに入り更にoutroと畳み掛けていきます。

—–outro—–
まっさらなアルバムの
1ページ埋めるリフレイン
真っ逆さまの中
意識を飲み込む泡沫の夢
鏡を見ると映り込む
笑顔なのに何故か泣きそう
身を守る為塗り固めた嘘に
しがみ付いて全てを託そう

まっさらなアルバムの
1ページ捲り見つめる
真っ逆さまのまま 
夢にまで見てたいつしかの風景
謝罪によく似てる祈りも
溜め込んだ思いも無くなり
手に一握りの愛
もう過去には囚われない未来
—–


怒涛のbridge, hookの後にはエピローグに近いoutroに入ります。
「鏡を見ると映り込む 笑顔なのに何故か泣きそう」がまだ弱々しいヒーローのようでとても良いですね。

また、「謝罪によく似てる祈り」という言葉が出てきますがこの表現力にも感心させられます。『「ごめんなさい」に似た「お願いします」』ということですが、出来ない自分に対して結果を祈る時、単に祈ればいいのか過去のできない(やらない)自分を謝罪するのか、といった混同した気分のこと表現していると思います。
最後の最後までこんなに作り込んでもらえると好きにならざる得ないですね、何度も聞いてしまいます。

「もう過去には囚われない未来」として締めくくるのですが、ビートも止まり、余韻をリスナーに預けています。まるで、後日談がない小説のようです。
あとがきもないので、その後のストーリーはご自由にということでしょうか(もしくはytr本人が作っていく、とも取ることができます)

普段は飄々としたキャラクターでラップするytrのため、ネガティブからポジティブへの転換を描いた題材曲「リフレイン」とはイメージが合わないように思えますが、彼なりの葛藤と本音が同居しており彼の隠れた一部分が知れるようでとても大好きな曲の1つです。

もし、この曲をラッパーラッパーしたラッパーが歌っても私には響かなかったと思います。
ネットという薄く細い中での繋がりだからこそ自分に響いた曲であり、歌詞を通してもっとこの人を知りたいと思えました。
名無し同士が魔法の箱を使って奇妙な繋がりを築けるからこそ、私はネットラップが好きです。

洋平

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