in-d/indoorについて(2019/5/20)
高野 虎
まず本題に入る前に少しだけ自己紹介を。
この度友人である年越しプリン氏(当ブログDJネーム)からのお誘いでこの『日本語ラップオタクブログ』に寄稿させて頂くことになりました。普段Twitterなどは愛嬌筋の妖精テリー・マザーファッカー・虎なんていうふざけた名前でやってたりするんですがSNSではなくちゃんとした文章で作品を扱うということなのでここでは本名でやらして頂こうと思っております。
では本題に入らせて頂きます。
グループというのは大変だ。例えばトリオのお笑いコンビが全員目立とうとするときっとネタは崩壊する。サッカーで11人全員がシュートを入れようとしてもきっと勝てないだろう。グループには各々役割が分担されておりそれを各人が全うすることによってバランスが保たれている。
THE OTOGIBANASHI’S (略 OTG’S)というグループがいる。ラッパーのBIM、in-d、PalBedStockからなる3MCのグループでPSGやSIMI LABなどが所属するHIP HOPレーベルSUMMITに所属している。先ほどの話と同じようにOTG’Sの三人にも役割が分担されている。
フロントマンであるBIM氏は楽曲制作の手綱を引いたり、ライブではMCなども氏を中心に行っていく実質グループのリーダー的存在だ。バックDJなども行うPalBedStock氏は普段マスクを被っていて未だに正体が誰にも分からずグループのマスコット的存在を担っている。一方今回の主役であるin-d氏はどこか一歩引いた目線でグループを俯瞰しているイメージがある。ライブでは前に立って目立つというよりは他のメンバーのサイドキック的立ち位置で的確にアシストしている様が印象に残っている。
そんなin-d氏が自身が所属するレーベルSUMMITから1st ソロEP『indoor』をリリースした。
リード曲のMVが公開されてから3日後にリリースという実質サプライズリリースといった流れは配信オンリーならではのスピード感を感じた。
実は本作は氏のソロデビュー作というわけではない。氏は2017年に『d/o/s』という1stアルバムをリリースしている。ただこのアルバムは今回の『indoor』のようにSUMMITからリリースされたものでは無く、OTG’Sが中心となって出来たCreativeDrugStore (略 CDS)からの自主リリースだった。なので配信はされていない。自主リリースということもあってかプロデューサー陣はdoooo、BIM、JUBEE、VaVaそして自身とCDSのメンバーオンリーで固められている、客演に関しても外部から呼んでいるのはPSGのGAPPER氏一人のみ。「俺のソロだ!」という主張よりも仲間と作ったという要素の方が濃く感じるアルバムだった。ただ正直今作と比べるとミックスなどは粗く、販売形態もライブ会場とdiskunionオンリーという玄人向けな作品だったのは確かだ。
それから2年後ようやく誰もが聞ける配信という形で氏のソロ作が発表されたのはソロラッパーとしての決意表明のようなものを感じた。
本作『indoor』はタイトル通りin-d氏の頭(ドア)の内側を少し覗けるような作品だった。
一曲目というか実質イントロ的扱いの『indoor』で氏はこう歌っている。
「今は一人 誰かいればなんて思うけど もういい」
本作に客演はない。氏が一人で世界を作り上げていく。最初にその断りを言ってEPは幕を開ける。
そしてリード曲でもある『On My Way』が流れる。プロデュースは同じクルーに所属しながらレーベルメイトでもあるVaVa氏だ。氏の新たな代表曲になると確信させられるナンバーだろう。フックのキャッチーさなどは新境地を感じる。
それからはPUNPEE氏の『MODERN TIMES』以降SUMMITの作品には欠かせない存在となったRascalのビートや今回がSUMMIT初参加のHoly Beatsのビートが続く。前作『d/o/s』に収録されていた『VIEW』を(マスタリングなどをし直した状態で)再録しEPはラストの曲に向かっていく。
本EPを締めるラストトラックのタイトルは『帰路』。最近ラッパー、トラックメイカーとして唯一無二なスタイルを確立しつつあるJUBEE氏がプロデュースだ。
本作を通して氏は常にどこかを散歩・徘徊・彷徨っている。ただそこに何か意味があるわけでは無く氏にとって自分の足で街を見ることが日常なのである。埋立地やオフィスビル、タワーマンションを彼は見ながら変化している状況、過去に関係を持った女性のことや昔の思い出、友達や家族のことを考え答えを探しながら独りの時間を埋めている。ただその足どりは決して重くはない。何故なら氏には帰るべき場所があるからだ。時には氏の地元である藤沢かもしれないし、同クルーのBIM氏とheiyuu氏と共に暮らす自宅かもしれない。ある時は彼らのホームである恵比寿BATICAかもしれない。どちらにせよそこには氏の信頼する人間が必ずいる。それを思いながら氏は”帰路”に着くのだろう。
本作はそんな氏の散歩に付き合っているのかと錯覚させられる内容だった。
一つ本作に対して難点を言うのであればもう少し氏のパーソナルな部分が見たかったと言うのはあるだろう。全曲通して氏はちょっとカッコ良すぎるのだ。きっと三枚目な部分もあるだろうしお茶目な部分があるのだろう。そう言った部分というのも見て見たかった。ただこれはそのうちリリースされるであろうフルアルバムを待てということなのだろう。
高野 虎